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はじめに

 2015-01-01
ようこそ いらっしゃいました。

こちらは、とーこが趣味で運営しております創作小説のブログです。

二次小説:
「吸血鬼ハンターD」のみ扱っております。

原作者様、関係者様には一切関係ございません。
また、無断での使用はおやめ下さい。


作品紹介

*約束:長編。 全十八章。一章 約15000字前後。完結。短編など二次部門すべての元となっています。
  残念ながら「D」は出てきません。
  「D」の世界を舞台にしたオマージュ?作品。
  主人公は十六歳の、吸血鬼と人間の混血の少年ダイ(勝手に性別も名前も決めました/汗)。
  聖魔遍歴から十六年後、タエとその息子の(捏造)物語。
  ごくごくフツーの小説ですが流血描写が苦手な方、また原作に確固たるイメージをお持ちの方はご遠慮ください。
  原作キャラはタエさんと、ツルギ医師のみ。後はすべてオリジナルです。
  原作を知らない方も楽しめるようになっています。

*真実:中編。 全八話。一話 約3500字前後。
  「約束」から約一年後。流血、暴力、少しばかりの性描写あり。閲覧注意。完結。
*漆黒の翼の天使:一話約2000~3000字
  息子(十二歳)の淡い初恋と、父親探しの苦悩を、母親タエの目線で。完結。
*闇の皇女:中編 全十六話 一話 約4000字前後。
  「真実」から数日後。貴族の女性と人間の青年の恋。そしてその狭間で揺れ動く少年のお話。 


二次短編
*夜明け前
*君を連れていくよ
*晩秋の雪 他

作品により時間が前後します。ほぼ、「約束」から遠く時間が経ち、永遠の青年時代のお話。

オリジナル: 
 140文字のストーリー
 つぶやきを文章にしてみました。
 
*リフレイン  彼女に未練を残す青年のストーリー 
*今宵、満ちた月の下で  退魔物。

素材はこちら
妙の宴


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陽炎

 2013-09-04
 またご贔屓に、と被服店の主人にいつも通りの挨拶を交わし、店のドアを開ける。
 目の前に現れるのは、太陽ばかりが照りつける、埃くさい殺風景な景色。
 この辺境の何処にでもある景色が、遠い何処かの景色に似ていて、何か懐かしいものが込み上げて来る。
 だが、それに浸ったところで虚しいだけだと思い、彼はそれに蓋をした。
 人気の無い、舗装もされていない道に足を踏み出す。
 こんな寂しげなところだ。装飾品という商品を買ってくれる者など、多々いる訳もないが、年に数度、思い出したように訪ねる自分を受け入れてくれることに、彼は感謝していた。
 彼は少ない日陰を選んで歩く。
 日差しを浴びた途端に襲いくるのは、言いようのない怠さ。
 いつものことだといつも思うが、いつまで経っても慣れることはない。
 それが、生まれながらの自分の体質だから、仕方のないこと。
 だから、日差しの下へ出る時は、いつも小さな覚悟がいる。
 彼は馬を引きながら歩き、やがて大きな木陰を見つけた。
 疲れた身体を木陰で少し休ませ、一息ついた。急ぐ旅ではない。
 得意先からの、納品の催促も無きにしも非ずだが、如何せん遠い。
 急いでも仕方が無いと、休憩を選んだが、それでもそうゆっくりともしてられない。
 何故なら、宿を探すという難題が待っている。
 前回快く泊めてくれた宿が、今回もそうするとは限らない。
 自分が吸血鬼との混血である以上、人が避けるのは当然のことなのだ。
 彼は小さく息を吐き、立ち上がった。その難題を解決せねばなるまい。
 木陰の外へ一歩踏み出す。
 それは、その時起こった。
 突然目の前が真っ暗になり、急激な脱力感と共に両膝が折れ、なす術もなく、太陽が燦々と降り注ぐ大地に倒れ落ちる。
 被っていたはずの帽子が転がり、顔に光が突き刺さる。
 手足が痺れて、感覚が失われる。
 音が、光が、世界が遠のいて行く。
 例の発作が起きたと思うのと同時に、今回はマズイと危機を感じた。
 いつもならば、ある程度身体を支えることが出来るのに、今回は出来ない。
 地面に沈むかと思う程、身体が重い。
 指を動かすにもどうやって動かしたらいいのか考えてしまう程、酷い倦怠感が全身を襲う。
 太陽光がすべての引き金になるこの発作。貴族との混血であるダンピール特有の発作だが、手当は陽の光の差さぬ所で土に埋もれるというもの。しかも手当が遅れれば遅れるほど、命の保証はない。時間との勝負なのだ。
 それなのに、身体が動かない。動かせない。
 太陽は容赦無く無防備な身体を焼き続けるのに、それから逃れる術がない。
 やがて僅かに音が戻ってくる。
 風が木の葉を揺らす音だった。
 手の感覚が戻り、意識が持っていかれなかっただけ、助かったと思った。
 何とか目を開ける。
 力なく投げ出された自分の腕が見えた。
 その指の先に、木陰がある。
 風に揺れた影が、その腕を舐める。
 身体に当たる光の感覚から、足の先も木陰の中にあるのが分かる。
 せめて、この身体を影の中に入れることが出来れば。
 剥き出しの地面に触れていたことだけが、唯一の救いだ。
「――う……」
 彼は呻いた。動かない腕を伸ばし、木陰を求める。
 ピクリと、指先が震える。
 もう少し。
 身体が少しでも動いてくれれば。
 苦しげな声をこぼし、じりりと身体を引き寄せる。自分ではかなり力を振り絞っているのに、思うように移動出来ない。ほとんど位置が変わらない。
 僅か数十センチの距離が、永遠と思えるほどの、はるか彼方に感じられた。
 息が切れ、酷い耳鳴りと頭痛がやって来る。
 いよいよ持ってまずい。体力が限界を迎えている。いつまで意識を保てるかわからない。
 肌の焼け付く痛みが増す。
 こんなことになるなら、この平原越えではなく、遠いが東の森を行けばよかった。
 そうは思っても、倒れてしまった以上、後悔しても始まらない。
 彼は前回の発作がいつだったかを数えてみた。
 三年前だった。
 彼は自嘲気味に心の内で嗤う。
 サイクルを考えれば、予測は出来た。
 しかし三年から四年という、あまりに長いサイクルと、ある程度自分で対処できて来た事実が、また発作が起きても何とかできると、彼を慢心させたのかもしれない。
 彼は動かぬ腕を伸ばし、木陰を、闇を求める。
 せめてそこに逃げ込むことが出来るなら、そこで回復するのを待つことが出来るのに。
 彼は己の甘さを呪った。
 人間に見つかれば、間違いなく心臓に杭を打たれる。
 首を落とされ、焼かれるだろう。
 被服店の主人に受け入れられてはいても、町の人間全てに受け入れられたわけではない。
 この発作が、時間との勝負というのは、こういうことなのだ。
 ――俺はこのままここで朽ちるのか。
 そう思った時、それもいいかもしれないと、諦めにも似た安らぎを覚えた。
 そうしたら、彼女に逢えるだろうか。彼女は逢いに来てくれるだろうか。
 もう、身体が動かない。
 太陽の光に足掻き、陰に逃げ込めたのは僅かな指先だけ。
 肌は焼け付き、刺すように熱く痛いのに、酷い寒気に襲われた。
 気温は決して低くはないのに、指先がかじかむ。
 体温が急激に下がり始めた証拠だった。
 息が詰まり、呼吸も思うように出来ない。身体が重い。怠い。猛烈な睡魔が襲ってくる。身体が仮死状態に陥ろうとしている。
 これはもう、末期症状だ。
 この後、意識が無くなれば、自分の命は天のみぞ知るところとなる。
 痛い。寒い。苦しい。闇が押し迫る。落ちて行く。
 彼は心の中で、彼女の名を呼んでいた。
 その時、遠くで自分の名を呼ぶ声がした。
 ヒステリックに、泣き叫ぶような女性の声が。
 一瞬、意識が引き戻される。
 その声は聞き覚えのある声だった。長い間恋い焦がれ、追い求め、決して叶えられなかった声。
 ということは、自分は彼女の元へ逝けたということなのか。彼女が逢いにきてくれたというのか。
 酷く満足している自分がいた。
 身体を揺すられる。
 何度も名前を呼ばれる。だが、返事が出来ない。
 声は聞こえているのに、目が開けられない。
 彼女に触れたいのに、手を伸ばすことが出来ない。
 しかし、頭を抱えられ、彼女に包まれる温かさに、彼は安らぎ、身を委ねていた。


 彼は目を開けた。
 暗い。
 何処かの一室。厚いカーテンが引かれていることから、地下室ではなさそうだ。
「目が覚めた? 六日間、眠ってたわ」
 女性の声にそちらを向けば、栗色の髪の女性の後ろ姿が見えた。
 彼は慌てて起き上がる。
 眩暈と、固まった身体の節々の痛みに襲われた。
 身体から、乾き切った土塊が、ボロボロとこぼれ落ちる。
「駄目よ。急に起き上がっちゃ」
 振り向いた顔は別人であることを伝えた。
 安堵と失望がない交ぜになる。
 そうだ。彼女はもう、とうの昔にいないのだ。
「――ありがとう……。君が助けてくれたの?」
 彼は現実を見ていた。
 トレーを手にやってくる女性を見上げる。被服店の主人だった。
 彼女が手当してくれたのか。
 彼は、ベッドと部屋を土で汚させてしまったことを侘びた。
「気にしないで? こうしないと良くならないでしょ?」
 彼女は笑う。
 トレーの上には、水の入ったコップとステンレスのピルケースがあり、彼女はそれをベッドサイドへ置く。
 それが何であるかは、二人とも知っていた。
 彼女はベッドの淵へ腰かけ、彼の頬に手を伸ばした。
 彼の顔が後ろへ逃げる。
 彼女は笑った。
「保護シールを剥がすだけよ。相変わらず用心深いのね。顔と首筋、それから手よ。発作のせいで抵抗力がかなり落ちたのね。太陽光に焼かれて、酷い火傷になってたの。ただでさえ日光から受ける火傷は治りにくいのに、回復力も人間並みにまで落ち込んじゃってるから、多分まだ痕が残ってるわ」
 彼は自分の両手を見る。
 手の甲、指先、手のひら。両手のあらゆるところに、白いシールが貼られていた。
 彼女の手が伸びて、額から頬にかけて貼られたシールを静かに剥がす。
 ちりちりとした小さな痛みに、彼は少し眉根を寄せた。
「ああ……やっぱりまだ痕が残ってる。綺麗な顔が台無し」
 剥がしたシールを丸めながら、桜色の真新しい皮膚でまだらになった彼の顔を見つめ、彼女は笑った。
「明日には治るよ」
 首筋と両手のシールを自分で剥がしながら彼も笑った。
「でも、見つけてくれたのが君で良かった。他の人だったら、杭を打たれてたよ。――ありがとう。でも、どうしてあそこにいるってわかったの?」
「追加注文するの忘れちゃって、慌てて追いかけたの。そうしたら、あなたが倒れてるのが見えたから。すぐ、発作だってわかったわ」
 彼は苦笑した。
「俺のことなんでも知ってるみたいだ」
 彼女も笑う。
「知ってるわよ。あたしがまだこんな小さい子供で、先代からのお付き合いだもの。ーーいつの間にか、あたしの方が年上になっちゃったけどね。ここへは旦那が運んだわ」
「迷惑のかけっぱなしだ」
「いいじゃない。あたしとあなたの仲だもの」
「聞いたら、旦那さん誤解するよ」
「大丈夫よ。旦那には話してあるもの。あなたにこっぴどく振られたって」
 彼は慌てる。
「ちょっと待ってよ。こっぴどくって……。小さな頃に、俺のお嫁さんになるって言ってたの、まさか本気だとは思わなかっただけだよ」
「そのくらい一途だったのよ? あなたが飢えたなら、この血をあげてもいいって思ってた」
 途端に彼の顔が哀しみに歪む。それを見た彼女は慌てて両手を振った。
「ああ、わかってる。わかってるから! あなたがそういうの受け入れないってわかってるから。だから、あたしを振ったんでしょ? あなたの口癖、人間は人間同士がいいって。でも、それじゃあなたずっと一人ぼっちよ?」
 彼は笑っていた。
「そうでもないよ。こうして仕事してるし、君みたいな変わり者にも、時々逢える。俺はこう見えて、一人じゃないよ」
「変わり者ってひどい! でも良かった。あたし、あなたに振られてから、すっごい落ち込んだんだから。でもね、今はとっても幸せよ。あなた程じゃないけど、素敵な旦那さんに巡り合えたし、あなたのことも理解してくれる。あなたは私を幸せにはしてくれなかったでしょ?」
 彼は、苦虫を潰したような顔をした。
「――キツイな……」
「ふふ。ちょっとした仕返し。あなた、こんないい女泣かせたんだからね」
「――はい……」
 彼は苦笑した。
 彼女はベッドの淵から立ち上がる。
「もう少し休んだほうがいいわ。いつもより回復に時間がかかってるし。そこに置いたから、ちゃんと栄養摂ってね」
 そう言って笑いながら、彼女は部屋を出て行った。
 彼は、ベッドサイドに置かれたトレーに手を伸ばす。
 ピルケースを掴み、それを開けると、中に入っていた赤いカプセルを二つ、つまみ上げた。口に咥え、コップの水で流し込む。
 これは、彼が日常的に必要としているものーー人間の血液。それをカプセルにしたものだ。
 常人ならば嫌悪に顔を歪め、唾棄するだろう。
 なのに彼女は、これを受け入れている。
 もしかしたら、彼女とだったらもう一度、人生をやり直すことができるかもしれない。
 彼女から想いを伝えられた時、そう思った。正直、嬉しかった。
 しかし、同じ過ちは二度と繰り返したくはなかった。
 だから彼は心に蓋をし、自分の運命に従った。
 彼は、今の彼女の姿を見て思う。
 その判断は正しかったと。
「――ありがとう……」
 コップをトレーに戻し、彼は言った。
 厚いカーテンの向こうからこぼれる光は、いつの間にか穏やかな暖かい色に変わっている。
 彼女の言葉に甘え、もう一晩だけゆっくりすれば、明日には発てるだろう。
 ふと、宿を探すという難題から、いつの間にか解放されていたことに気がつき、彼は一人、ひっそりと笑った。


END
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黒の破壊者 7

 2013-03-05
 彼は右手でそっとエイルを押しやり、その左手が誘うようにゆっくりと上がる。
 ――奴の報復が来る!
 自分の思い通りにならないものは潰す。
 「破壊者」とあだ名される所以はそこからも来ていることを知っていたし、そういう奴だと思っていた。
 瞬時に少年の身が低くなり、彼は唸り声を上げる。
 その声が豹の声だった事に、エルフだけが気がついた。
「お前……」
 嫌な予感を感じたかのように、妖精の少女がそう言って、少年のそばへ飛んだ時だった。
 トールの左手が、空中の何かを掴んだ。
 軽く引く。
 すると、檻の正面の格子が、派手な音を立てて外れたのだ。
 止めていたボルトが勢いよく弾け飛び、その格子はもうもうとした砂埃を上げ、地面に倒れた。
 埃の向こうで、トールが左腕を下ろしたのが見えた。
 少年は何が起きたのか分からず、呆気にとられ身動きすらできずにいる。それは妖精の少女も同じだった。
「どうした。出ないのか? そんなに檻の中が気に入ったか?」
 二人は、この男が何を考えているのか、まるで見当がつかない。
 舞い上がった砂埃が治まっても、まだ檻の中にいた。
「――どういうことだ?」
 エルフが警戒心剥き出しで言った。
 トールはやや投げやりに肩をすくめる。
「俺の負けだ。お前たちを解放する。好きにしろ」
 そう言って笑うと、エイルの頭をポンポンと叩いた。
 トールはそのままエイルを残して、「じゃあな」と右手を上げ、背を向ける。
 ――おかしい。
 あんなに少年に執着していた男がこうも簡単に諦めるものなのか。 
 そう思ったのは、エルフだけではなかった。
 少年が吠えたのだ。豹の咆哮で。人間の声が消えたと思うも、今それにこだわっている場合では無かった。
 駆け出し、トールの前に回り込む。
 行く手を阻み、何か言いたげに男を見上げる。
「なんだ。気が変わったか?」
 トールはからかうように笑った。
 少年は口を曲げ、やはり首を横に振る。
 真顔に変わった。
「ならばどけ。豹は孤高な生き物。簡単に縋るな」
 エルフもやって来る。少年の頭上を飛び、トールに噛み付いた。
「待て! あんなに執着していたではないか! 何故急に諦めた。子供たちを 寄越したのも、こいつを引き止めるためだろう? そこまで考えておきながら何故……」
 トールは自嘲気味にエルフを見た。
「読まれていたか。ただの浮ついた妖精ではないようだ」
 その瞳が、少年には哀しい眼に写ったのは何故だろう。
 彼はエルフから視線を外すと、青い空を仰いだ。
「今夜は満月だ」
 月見を期待するような言い方だった。
 しかし、ここに住むものにとっては意味合いが違う。
 エルフも少年も、その言葉に含まれる僅かな緊張を聞き取っていた。
 つまり、我々の能力が最低レベルになる――ということ。
「我々を潰すには、満月の時に限るということだ」
 それは今夜、あるいはその前に敵が来るということか。
「だから逃げろと言っているのか?」
 エルフは言った。
 トールはどこか諦めたように唇の端を吊り上げる。
 諦め――これほど、この男に似合わぬものはないのではないか。
「仲間でもないお前たちを、巻き込むわけにもいくまい」
 静かな声も、この男には似合わなかった。
「子供たちは」
 エルフは食い下がる。
「彼らは安全なところへ戦えぬ者たちと共に逃がす。満月ゆえ、結界も確実ではないが、無いよりはマシだろう」
 トールの少し後ろにエイルがいた。彼女が危険に晒されるかもしれない。そう思うと、少年の心は痛んだ。
「お前はそれでも戦うのか」
 エルフは男の前に浮いていた。
「仕方あるまい。攻めて来るものがある限り、俺はユルタを……この村を守る。俺は満月でも能力が若干使える。その俺が戦わねば、誰が皆を守るのだ。それが村長(むらおさ)としての俺の使命であり、『破壊者』とあだ名される者の宿命だ」
 黒衣の破壊者は自分に言い聞かせるように、毅然と言った。
 だが、エルフはまだどこか納得していない。少年も不安げにトールを見上げている。
「トール。お前の敵とは誰だ。まさかとは思うが……」
 妖精は黒衣の青年の行く手を、その小さな体で塞ぐように浮遊していた。その不思議な色の瞳が、青年の心の深淵を覗こうとする。
 青年はニヤリと嗤う。
 あのいつもの、不敵な笑みだった。
「それも感づいていたのか? ――その通り。『賢者』だ」
 少年の躯が大きく震えた。
 トールは少年を見た。
「お前が『賢者』の元を離れたと知ってから、俺はお前を探していた。お前も俺と同じ、満月の下でも人間以上の力が使える。是非戦力に欲しかった。『賢者』を知っている奴でもあるしな。だがお前は頷かなかった。お前が何故、頷かなかったのか、俺にはわかっているぞ。俺がお前に提示したものは『賢者』と同じものだったからな。鎖が檻に変わっただけで、立場は何も変わってはいない。それが嫌で『賢者』から逃げ出したのであろう? ――お前はそれをちゃんと分かっていた」
 トールは真剣な眼差しで少年を見つめ続ける。
「その首輪を切れ、オセロット。それがお前にかけられた呪いだ。声を奪われ、豹の咆哮しかないのは、それのせいだ。新月でお前の力が強まったために、人の声が出たに過ぎん。満月になれば、また豹の声に戻る。――もう、戻っているのだろう? とにかく早く逃げろ。また捕まるぞ」
 その時、ディオナがトールを呼ぶ声がした。敵だ。
 彼はその声に弾かれるように振り返り、少し戻るとエイルを抱きかかえた。子供たちを守らねばならない。
 トールは少年を見下ろし嗤う。その微笑みは、この世界で一番強いのは俺だと誇示するような、あの不敵な笑みだった。
「お前の脚ならば逃げ切れるだろう」
 彼はそう言い残し駆け出す。コートの裾が大きく翻った。
「待て!」
 エルフが叫ぶが黒い背中は振り返るどころか、その足を止めることも無かった。
 少年が吠えた。豹の咆哮が響く。
 今夜は満月。この村の戦士の能力が、どのようなものかわからないが、最低レベルまで落ち込んでいるのは確かなこと。とすれば、あとは普通の人間としての戦力しかない。
 満月で、最高レベルの能力者の集まった「賢者」の親衛隊を、使えるとはいえ、最低レベルまで落ち込んだ状態のトールひとりで戦うには、荷が重すぎる。
 それは新月の下の「賢者」も同じことで、「賢者」が自分を手元に置いたのは、新月の時の戦力不足を補うためだ。
 しかし自分には、満月の時でも豹としての能力と人としての知能はあった。満月の下でも、人間以上の戦いができたのだ。
 少年の脳裏に、ディオナに視せられた青い戦場の景色が蘇った。
 曖昧な記憶だったが、「賢者」を守ることだと信じて、剣を振るった。あの日も満月だった。
 そう。自分は満月でも戦える。だから「賢者」は自分を手元に置き、恐れ、人とコミュニケーションが取れぬよう、言葉を奪った。
 トールに抱きかかえられたエイルが、彼の肩ごしに少年を呼んでいた。その声がまるで、拐われた少女が少年に、助けを求めるような声に聞こえた。
 大人たちと逃がすと言っていた。
 結界も十分ではないと。
 もし見つかったら。
 もし結界が破られたら。
 少年は彼女の小さな暖かい手を思い出していた。
 傷を治す不思議な少女。
 自分はいつの間にか、彼女がやってくるのを心待ちにしていた。
 彼女が傷つくのは嫌だった。
 彼女を、この村の子供たちを守りたかった。
 少年が吠える。
「――と……」
 豹の咆哮に言葉が混じった。
 少年は吠える。
「――とーる!」
 黒い背中が振り返った。
「――トール!」
 その時、少年の首にしっかりと張り付いた、黒い革の首輪が弾け飛ぶ。
 エルフの目が見開かれ、トールは足を止めた。


==
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黒の破壊者 6

 2013-03-04
 エイルは彼を気に入ってしまったのか、少年の元を離れようとはしなかった。
 そればかりか、檻の前にしゃがむと手を突っ込み、彼の大きく太い前足の一方を触り始めたのだ。
 彼は驚いて躯を起こし、その足を引っ込めてしまう。
 触られた前足が中に浮き、恥ずかしそうに内側を向いて揺れていた。
 エイルは笑う。
「オセロットってかわいいね」
「ませた子供だ」
 妖精の少女は呆れたように笑った。
「あたし、オセロットのこの豹の体、大好きよ。ふわふわだし、おっきな猫みたい」
「まあ、確かに猫だな」
 妖精の少女は少年の肩に乗って笑っていた。彼が四足で立つとエイルを見下ろしてしまう。
 少年は、また腹ばいになると、これもまた前足を檻の外に出した。
 エイルは嬉しそうにその足に触れ、少年も照れくさそうに笑っていた。
「ねえねえ、あたしの名前、もう一回言ってみて?」
 嬉しそうに笑うエイルに、また少年は驚く。
「エイルよ? エ・イ・ル」
「――あー……う」
 さっきのは偶然だったのか、戸惑いながらも真似をするが、その言葉は出なかった。
 そして。
 少年の檻の周りにはいつの間にか子供たちが集まるようになっていた。
 彼も子供達が嫌いなわけではないようだったが、面倒な時は尻尾であしらい、それがまた子供たちにはうれしかったようだ。
 そして面白いことに、彼はエイルがやってくると、素知らぬ顔をしているくせに尻尾だけはピンと立っていたり、エイルの掴む格子に躯をこすりつけたりする。
 エイルもそれが嬉しいらしく、彼の尻尾を掴んだりするのだが、それは苦手らしく、その時ばかりはおかしな声を出したりしていた。
 だが、少年が檻から出してもらえる気配は無いのは変わらなかった。
 と言うのも、毎日のように、トールとディオナが入れ替わり立ち代り、仲間になれと少年を誘うが、彼は絶対に首を縦には降らなかったからだ。
「強情な奴め」
 トールは忌々しげに呟いていた。
 エイルは毎日のように、少年のところへやってくる。そして、お母さんに叱られただの、誰に意地悪されただの、取り留めのない話をする。
 そして相も変わらず、むしろそれが使命とでもいうように、少年に言葉を教え続けた。
 ある日エルフが気づいた。
「そう言えば、お前あれ以来、豹の声が消えたな」
 そう言われ、少年も気づいたらしく、目を見開き同意した。
 さらに奇跡が起きた。
「さあ、オセロット。あたしの名前は?」
 少年は口を開け、女の子を見つめる。
「――え……い……」
 女の子の顔が期待に輝く。
「――る……」
 エイルは声を上げ喜んだ。そばにいた妖精の少女も少年の周りをはしゃぐ様に飛び回る。
「じゃあ、私の名を言ってみろ」
「――えるふ」
「もう一回! あたしは?」
「えいる」
「お前は?」
「お……」
 エイルとエルフは顔を見合わせる。
 自分の名は言いにくいらしい。
 三人は檻を挟んで笑っていた。
 そこへ、この平和なひとときをぶち壊すかのように、トールがやって来た。
 相変わらず黒ずくめだ。
「随分と仲良くなったな」
 皮肉に聞こえるのは、奴を信用していないからか。
 だがエイルは嬉しそうに笑い、トールにその成果を報告する。
「でね、ちゃんとあたしの名前、言えたのよ」
 トールも「そうか」と優しげな微笑み返していた。
 しかし少年は警戒し、檻の奥へと下がってしまう。こいつは子供と自分に対しての態度が明らかに違うのだ。
 案の定、優しく微笑んでいた筈の瞳が厳しくなるや、その視線のまま少年を見つめる。
 少年の身体が緊張する。躯をやや低くし、長い尻尾の先が鎌首のように少し上がり、左右に揺れた。
 彼の攻撃の意思表示だった。
 その態度を見てか、トールはあの不敵な笑みを浮かべる。
 その黒い瞳が鋭くなった。
「これが最後だ。俺の仲間になる気はないか」
 少年の、奴と同じ黒い瞳も鋭くなる。
 その時、女の子が囁くような声で、「オセロット……」と不安げに彼を呼んだ。
 彼の瞳から鋭さが消える。攻撃を表していた彼の黒く長い尾が、下がっていく。
 黒いコートを掴んでいる小さな女の子の瞳は、不安そうにしかし少年の答えを期待するように揺れている。
 少年の瞳も揺れた。
 彼女には親切にしてもらった。思えば、こうして檻に入れられてはいるものの、食事はきちんと運ばれてくるし、特に危害は加えられていない。子供たちは皆、自分を慕ってくれていた。
「どうだ。仲間になってみないか?子供たちも喜ぶ」
 今度のトールの声は何故か穏やかで優しかった。
 少年は女の子を見つめる。
 彼女の瞳は、明らかに頷くことを期待している。少年の目が固く閉じられ、その顔が苦渋に歪む。
 しばらく苦しげに閉じられ、そして決意を表すようにゆっくりと開いた。
 彼は首を横に振った。たった一度、はっきりと。
 エイルの肩が、誰よりも早く落ちた。
「そうか」
 無表情にトールは言った。
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黒の破壊者 5

 2013-02-24
トールが檻に近づくと、檻がまた扉の形に開き、彼はそこをすり抜けた。
 外に出るなり子供たちが纏わり付いて、口々に大丈夫かと、彼の身を案じている。
「おい! 豹人! トールに何かしたら承知しないぞ!」
 一人の男の子が、怒りもあらわに少年を脅し始める。
 すると彼は、その男の子の黒い頭に優しく右手を乗せた。それはまるで、兄が歳の離れた弟を嗜めるような仕草だった。
 男の子がトールを見上げる。
「よせ。彼を試しただけだ。彼はこれから俺たちの仲間になる」
 トールがそう言った途端、子供たちは驚いて一斉に少年を見る。自分に視線が集中したことで少年は驚いたが、しかし驚いたのは子供たちの視線ばかりが原因ではなかった。
 少年が唸り声を上げ、怒った表情で檻の外の立つ黒い長身を睨む。さらに鳥籠の中から、「勝手に決めるな!」という反論まで飛んでくる。
 その反応を見てか
「まだ、了承はもらっていないがな」
 トールは取り繕うように笑った。
 そしておもむろに、子供たちにもう戻れと促す。
 子供たちは、一度は「えーっ!」と反抗するも、「戻れ」という言葉に、 トールの言うことだから仕方が無いとでもいうように、互いに顔を見遣りながら渋々従い、振り返り振り返り去って行く。
 そこにトールが残った。
 彼は子供たちがいなくなったあと、何を思ったか鳥籠に向かって左手を伸ばした。
 手首を返し手の平を上に向ける。今度は妖精の少女に危害を加えると思った少年が、檻に駆け寄り言葉にならない声で喚く。
 檻を両手で掴み揺らすが、檻はビクともしない。尻尾が激しく檻を叩く音と、少年の低いうなり声だけが響いていた。
 トールは少年をチラリと見遣る。蔑むような視線に見えた。
 彼は、自然に立てた二本の指を招くように、くいっと小さく曲げる。
 すると、檻から出たひさしの下に下がった籠のフックが、澄んだ音を立て弾け飛んだではないか。
 籠はトールの腕の動きに合わせて地面に降り、これも勝手に扉が開いた。
「お前は好きにしていいぞ」
 少女は、突然そんなことを言い出したトールが信用できず警戒の眼を向けるが、彼はそんなもの知ったことではないと言わんばかりに無視し、そのまま背を向け立ち去った。
 彼が何を考え、突然そんな行動に出たのか分からない少女は、その場から 少年を見上げる。少年も同じことを思ったらしく、二人はしばらく怪訝な目で見合った。
 そして少女は、彼の姿が見えなくなったのを確認してから、籠から逃げ出した。
 飛び立った場所はもちろん少年のところだ。
 この檻は、人間あるいは動物用で、少女が出入りするのには、なんの苦労もない。飛んだままだと翅が引っかかるが、地面に降りれば何ということもない。
 格子の間をすり抜け、少女は少年のそばへ行く。
「大丈夫か?」
 少女は少年の身を案じ、少年は頷く。
 顔の前で浮遊し、少年の首筋――首輪の上、顎の下辺りに小さな赤い傷があることに、少女は気がついた。
「奴の剣でやられたのか」
 少年は首に手をやり、戻した指先に僅かに付いたものを見て、肩をすくめた。たいしたことないと言ったのだろう。
 少女は細い翅を羽ばたかせ、少年の目の高さで浮遊する。その度に、キラキラとした金の粒子が舞たが、日中であるため、夜のような美しさは感じられない。
「さて、どうしたものか。あいつめ、お前がうんと言うまでここに閉じ込めておくつもりだぞ」
 それは少年にも分かっていたようで、なす術がないと言いたそうに、諦めたようなため息を一つついた。
 ふと、誰かがやってくる足音が聞こえた。
 今度は誰だと、少年は警戒する。
 やって来たのは、さっきまでこの檻に張り付いていた子供の一人、名前をしつこく訊いていた、あの小さな女の子だった。
 檻の前まで来ると、彼女はまた同じ場所に張り付いた。
 少女がそばにいることに気づき、女の子は笑う。
「かごを開けたの? すごいね」
 女の子はにこにこと笑っている。
「開けたのはトールだ。奴め、何を考えているのかさっぱりわからん」
 女の子は格子に掴まり、やはり笑っている。
「トールはいじわるはしないよ」
 信頼しきった彼女の言葉に、少年と少女は咄嗟に顔を見合わせる。
 それならば、今自分たちが置かれているこの状況を、どう説明すればいいのだろう。
「エルフは黒豹さんの味方なのね」
 女の子は二人の戸惑いには気づく訳もなく、無邪気に笑っていた。
「当たり前だ。こいつには私しかいないからな」
 妖精の少女は、そんな彼女に面くらい、やや不貞腐れ気味に言った。
「ねえ。お名前は? あたしはエイルよ」
 二人はまた顔を見合わせる。自分たちに名はない。あるのは、「白の女王」がつけた呼び名だけだ。
 それでも少女は口を開いた。問われたことには答えねばなるまい。
「こいつはオセロット。『白の女王』が名付けた。私には――無い」
 少女は、女王につけられた名は気に入らなかったようだ。
「そう。オセロットっていうの。じゃあ、エルフはエルフね」
 妖精の少女は、こちらも強引な彼女に驚いたように口を曲げ、仕方なさそうに肩をすくめる。どうやら、その名でいいらしい。
 エイルは笑っていた。
「お前に聞きたいことがある」
 妖精の少女――エルフは言った。
「なに?」
 彼女は檻をすり抜け、エイルの顔の前に浮く。
「トールだ。あいつは全てを壊す『破壊者』と言われている。何故、そんなに慕うのだ」
 するとエイルは驚いたように、そして少し怒ったように口を曲げた。
「トールはあたし達を守ってくれているだけよ。『破壊者』なんかじゃないわ。それはトールが強いからそんな名前で呼ぶの。トールは優しいの。あたしたちをいじめる他の人たちが悪いのよ」
 あたしたちは何もしていない。
 彼女はそう言って俯いた。
「お前たちをいじめる奴とは?」
「鎧を着た人たち。あたし達を傷つけたり、連れて行こうとするの。でもね、みんなトールがやっつけてくれるのよ」
 彼女はそう言って、誇らしげに笑った。
 それまで、静かに女の子を見ていた少年が、格子に近づいた。
 彼女に興味が湧いたのかもしれない。
 エイルの前に、後ろ足を折り座る。前足が行儀良く揃えられ、お決まりのように長い尻尾がくるりと前にまわっていた。
「――えぃ……う……」
 少年の声が聞こえ、彼女は顔を上げた。驚いた顔をし、少年を見つめている。それは、妖精の少女も同じだった。
「お前……」
「あたしを呼んでくれたの?」
 少年は頷き、エイルは彼を見上げ、うれしそうに笑っている。
 彼女が檻の中に手を差し入れた。何かに気づいたらしい。
「怪我してるよ? 首のとこ」
 少年はまた首筋を手で押さえ、小さく首を振る。笑っていた。
 エイルはなおも手を伸ばす。
「あたしが治してあげる」
「――え……」
 それは少年の驚きの声だったが、無論言葉が話せるようになったわけではない。たまたまその声が出たに過ぎなかった。
 エイルが懸命に手招きをしている。
 彼は躊躇いながらも、前足を檻の外を投げ出し、上体を檻に近付けた。
 豹の躯が腹ばいになったことで、彼の顔はエイル目線よりもやや低い位置になる。
 彼女の小さな手が首筋に触れる。そのまま数秒。
 彼はチリチリとした痛みが薄れ消えて行くのを感じていた。
 エイルの手が離れた。
 少女が覗きに飛んでくる。
「消えてるぞ」
 エイルは笑っていた。
「もう、痛くないでしょ?」
 少年は驚き、そして微笑んだ。
「――あー……」
 懸命に言葉にしようとしている。
「『ありがとう』?」
 少年は頷き笑った。
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